子の連れ去りとハーグ子奪取条約

  日本でハーグ条約が発効してから、4月1日で5年が経過しました。ここにいうハーグ条約とは「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」です。日本では一般に(ハーグ)子奪取条約と呼ばれます。

 ハーグ子奪取条約の一番のポイントは、一方の親が(Taking parent: TP)が他方親(Left-Behind parent)の承諾を得ずに、それまで居住していたA国からTPの母国であるB国に子どもを連れ去った時は、B国は子どもを速やかにA国に返還しなければならないことです。それは究極的には子の連れ去りを防止することで、両親と密接な関係を維持する子どもの権利を実現しようとするものであり、同条約は子どもの権利条約の考え方と一致します。

 もちろん国際条約なので、このルールが妥当するにはA国もB国も同条約を締結していることが必要です。日本は同条約が成立してから30年以上経過して、ようやく受け入れるに至りました。

 近年、国際結婚をして外国に居住していた日本人親(主として女性)が、別居や離婚の際に他方親(外国人父)の承諾を得ずに子を連れ去ることが国際的に問題視されています。日本国内では監護権を侵害する不法な子の連れ去りでも違法とされていませんが、国によっては監護権侵害罪として犯罪とされる場合があります。また、国内での子の連れ去りを犯罪としない場合でも、国境を越えた子の連れ去りについては、犯罪とする国々があります。

 最近になってとくに、日本人母による子の連れ去りの問題がヨーロッパやアメリカで認知され始めました。今年3月にフランス国営放送「France 2」の特番において、子を日本に連れ去られたフランス人父たちが、日本に子どもに会いに行くというドキュメンタリーが放映されました。番組名は「日本に拉致された子どもたち」です。

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 フランス人父たちは多くの場合、別居後や離婚後も共同親権や子どもとの頻繁な面会交流権(フランスでは訪問権といいます)が認められているので、日本人母による子の連れ去りは監護権侵害になります。フランスで子の連れ去りは犯罪です。

 彼らは日本の警察でフランスでの調停書又は審判書を示して子に会う権利があると説明するのですが、日本では共同親権や頻繁な面会交流権が認められていないため、警察の反応は極めて冷淡です。むしろ、子に会わせないように父親たちを制止します。

 上記ドキュメンタリーには、悲劇的な場面がありました。

 下の写真は、あるフランス人父が日本人母から受け取ったものです。フランス人父は子どもに会うために日本に来ます。玩具店で日本人の男の子から助言を受けてプレゼントを購入し、子どものもとに向かいます(おそらく母親の実家でしょう)。しかし、父親は玄関前で追い返されて、挙句の果てに警察に連れて行かれます。そして夜になって日本人母から送られてきたのがこの写真です。子どもはカメラに背を背けて、父親から届いたプレゼントを両手で高く掲げています。写真から子どもの顔を見ることはできません。これは何を意味しているのでしょうか。それは父親から預かったプレゼントが子に渡ったことを証明するだけです。おそらく、警察か弁護士のアドバイスで送ったのだと思います。私はこの写真を見たときに、これほど非道なことをする日本人母親がいるのかと思いました。ここまでする必要はあったのでしょうか。映像では、フランス人父は子どもの顔が映っていない写真を見て号泣していました。

 日本はハーグ条約の不履行について、国際的な非難を受けています。フランスの番組のように「拉致国家」といわれないためにも、国はこの問題にもっと真剣に向き合うべきでしょう。