大統領がツイッターでブロックすれば憲法違反になるか?

 先日、アメリカの裁判所で面白い判決が出ました。事案は、トランプ大統領からツイッターでブロックされた人たちが、大統領によるブロックは憲法違反であるとして訴訟を提起したというものです。連邦控訴裁判所(日本の高裁に相当)は7月9日、大統領がツイッターで自らに批判的な意見を書き込むアカウントをブロックしたことは、表現の自由を侵害するため憲法違反であると判断しました。同じ判断は、昨年5月に連邦地方裁判所でもすでになされていたようです。https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1907/11/news051.html

 一般に、憲法違反の対象となるのは「公権力の行使」です。ツイッターでの書き込みやブロックは普通は公権力の行使ではないので、それが公務員によるものであっても憲法違反かどうかが問題となることは考えられません。

 しかし、連邦控訴裁判所は、「〔表現の自由を規定する〕合衆国憲法修正第1条は、ソーシャルメディアを使用する公務員が公開のオンライン上の対話から自らと異なる見解を表明した人を排除することを認めていない」と述べました。つまり、公務員がSNSを利用して意見を発信したりする場合には、それに対する批判も受けなければならず、批判が気に入らないからと言ってブロックしてはいけないということです。

 もちろん、ホワイトハウスは、大統領のツイッターは私的利用なものなので、ブロックしても表現の自由を侵害にはならず、控訴裁判所の判決には「失望した」とのコメントを発表しています。

 この事例をどのように考えるかは悩ましい問題です。判決によれば、ホワイトハウスツイッターを公務遂行の手段として利用しており、大統領の公式声明と見ることができるとされました。実際、トランプ大統領のツイートは、国立公文書館で保存されているようです。6000万人を超えるフォロワーがいることを考えると、トランプ大統領ツイッターにはとてつもない社会的影響力があると言えるでしょう。また、先日の大阪でのG20サミット後の突然の北朝鮮訪問がツイッターによる呼びかけで実現したことを考えると、トランプ大統領ツイッターが私的利用と言えるかどうかも微妙なところです。

 控訴裁判所の考えは、大統領のツイートに公的な要素があるのであれば、批判も受けなければならないということなのだと思います。つまり、公権力による言論は一方的な言いっ放しではいけないということでしょう。大統領は自らへの批判に対しては更なる言論(more speech)で対抗しなければならず、批判を遮断するブロックはダメだということです。

 このようなアメリカの裁判所の判断は、表現の自由の機能に敏感な態度を示していると思います。安倍首相もツイッターで発信していますが、批判アカウントをブロックしたとき、日本の裁判所は憲法違反と判断する(できる)のでしょうか。

 当該判決はまた、インターネット時代での表現の自由や民主主義のあり方を示す点でも斬新です。それにしても、インターネットなど夢にも想像していなかった200年前に制定された憲法から、ツイッターの事件で意味ある解答を引き出したアメリカの裁判所の積極主義には、ただただ驚くばかりです。