参議院の存在理由

 参院選の投開票日が週末に迫って来ました。今回の参院選はとくに不思議な選挙です。というのも、選挙制度が複雑なので、選挙によっていかなる民意が示されたのかを理解することが不可能だからです。

 まず選挙区選挙ですが、各選挙区で1名だけ当選する「1人区」と2名以上が当選する「複数区」があります。「1人区」というのは衆院選と同じ小選挙区制で選挙区内の多数派の意思を代表させる「多数代表法」という考え方に基づいています。一方「複数区」は第2位以下の候補者も当選できる「中選挙区制」ですが、これは選挙区内の多数派だけでなく少数派にも議席を与えようとする「少数代表法」に基づく選挙制度です。つまり、参院選では「小選挙区制」と「中選挙区制」という考え方のまったく異なる選挙原理が組み合わされています。これに加えて、比例代表法(社会の多様な意見をそのまま議会に反映させるという考え方)に基づく比例代表選挙が行われているので、参院選では、3つの考え方の異なる選挙原理が混ざっていることになります。これでは、選挙においていかなる民意を問うのかがわかりづらく、また選挙結果を理解することも困難です。

 さらに、選挙区選挙では都道府県制が原則とされているにもかかわらず、2016年参院選から2つの県をあわせて1つの選挙区とする「合区」が導入され(鳥取と島根、高知と徳島)、都道府県単位で選挙区を区切る必要性もなくなっています。また比例代表選挙でも、今回の参院選では順位2位まで「特定枠」として指定することができ、「非拘束名簿式」比例代表制に例外が設けられています。

 以上からわかるように、参院選ではいかなる民意を問うのかまったくわからない制度になってしまっています。このような一貫性のない選挙制度では、参院選を実施する意味がわからないだけでなく、意味の分からない選挙で選ばれた議員からなる参議院の存在理由をも疑わせます。

 「合区制」「特定枠」という異例の選挙制度で選挙が行われたことは、いまとなっては仕方ありませんが、それは抜本的な参院選挙制度改革までの暫定的なものであることを忘れてはならないでしょう。次回の参院選では「合区制」や「特定枠」で選挙が行われることがないように、今回の選挙後、国会は憲法改正も含めた参院改革に直ちに着手すべきでしょう。

 また選挙後には「一票の較差訴訟」が提起されると思います。もっとも、今回は最大較差が3倍未満なので従来の判例に照らせば違憲にはならないでしょう。しかし、「選挙制度の首尾一貫性の欠如」も民主主義の根幹に関わる重要な憲法問題です。最高裁は何らの合理的な理由もない「特定枠」について、きちんと違憲と判断できるのか。注目していきたいです。