裁判官とJustice

 先日、映画「RBG 最強の85才」(http://www.finefilms.co.jp/rbg/)を観てきました。「RBG」とはアメリカ連邦最高裁判事であるルース・ベーダー・ギンズバーグ(Ruth Bader Ginsburg)の頭文字をとったもので、この映画は彼女の評伝です。ご本人も随所で登場します。

 ギンズバーグ判事は1933年生まれの86才で、アメリカ憲政史上2人目の女性連邦最高裁判事です。1993年に任命され在職25年以上になります。アメリカの連邦最高裁判事には任期がなく、自ら辞職しないかぎり終身で在職することが可能です。法律を違憲無効にできる連邦最高裁判事の任期が終身であることに問題がないわけではありませんが(通常は任期制and/or定年制がとられています。)、当のアメリカで問題視する意見は聞かれません。

 ギンズバーグ判事は筋金入りのリベラル派といわれ、弁護士時代から男女平等、女性の権利の確立のためにいわば闘ってきた法律家です。そのような彼女が9人の連邦最高裁判事に任命されていることに、アメリカという国の奥深さを感じます(ただ当時、指名が簡単なものでなかったことは、映画で出てきます。)。

 彼女の功績は、法律論でアメリカ社会を変革させた点でしょう。ロイヤー(法律家)の役割は何か、ロイヤーはどうあるべきかを教えてくれます。彼女のパッションと冷静で緻密な法律論が裁判所を動かし、社会を動かしたのを知り、アメリカとは法の国なのだなと思いました。

 とりわけ印象に残ったのは、合衆国対ヴァージニア州(1996年)判決です。この判決では、ヴァージニア州軍事学校が男性だけに入学資格を認めて女性の入学を認めないのは、合衆国憲法修正14条の平等保護条項に反するとして違憲と判断されました。男女平等を推し進める画期的な判決ですが、当時は相当の反発があったようです。しかしこの判決以後、同校では女性も入学できるようになりました。最高裁の判決が現実を変えたわけです。

 判決から20年後、当時判決をリードしたギンズバーグ自身が同校に招待されます。すでに80歳を超えた彼女ですが、学生や卒業生から熱烈な歓迎を受けていました。こういうシーンは日本ではまず見られないでしょう。

 アメリカの連邦最高裁判事はJusticeと呼ばれます。「ギンズバーグ判事」は「Justice Ruth Bader Ginsburg」です。もちろんJusticeの本来の意味は公正・正義です。アメリカの判事は単なる裁判官(Judge)ではなく、正義(Justice)を実現する人なのだと思い知らされます。

 日本の司法制度、違憲審査制度は戦後、アメリカにならって導入されました。しかし、社会を二分するような重大な問題について、日本の最高裁は判断を示すことに消極的です。これまで法律を憲法違反としたのは、70年を超える最高裁の歴史の中でわずか10件しかありません。アメリカとは異なり、日本では最高裁判事が誰なのかも知られていません。名もない顔もない裁判官こそ、日本で理想とされる裁判官像なのです。

 日本の最高裁判事たちは、本当にJusticeたり得ているのでしょうか。