丸山穂高議員に対する糾弾決議について

 6月6日、衆議院丸山穂高議員の糾弾決議が全会一致で可決されました。北方領土訪問事業での言動を理由に、同議員には国会議員としての資格はなく、自ら進退について判断せよ、というものです。これは事実上の辞職勧告でしょう。

 注目すべきは、戦争によって北方領土を取り戻すとの発言が「憲法の平和主義に反する発言」として糾弾の理由の一つになっていることです。しかし、いかに政治的に不適切な発言であったとしても、そのことを理由に国会議員の身分が失われることがあってはなりません。その意味で今回の糾弾決議は、1人の国会議員に対する言論弾圧といえると思います。

 かつて貴族院議員であった憲法学者美濃部達吉は、彼の唱えた天皇機関説が国体に背くものとして辞職に追い込まれました。これは今日では弾圧であったと評価されています。丸山議員の場合は学説ではありませんが、彼の政治的発言によって進退の判断を迫られているのですから、まさに言論弾圧です。また、明確な基準もなく、本人の聴取も行われないままの糾弾決議は、手続保障の点からも大いに疑問があります。

 驚くべきなのは、糾弾決議を野党が主導したことです。本来、少数派である野党こそ言論弾圧に警戒しなければならないはずです。それなのに同じ野党議員を糾弾するとは、どういうわけなのでしょう。参院選前の各党の戦略なのかもしれませんが、今後自らの失言が糾弾の対象とされることの危険について少しでも想像できなかったのでしょうか。多数派である自民党は、立憲民主党が提出した辞職勧告決議を回避したことで一定の見識を示しましたが、最終的に糾弾決議案に賛成しました。

 自民党の中でも、小泉進次郎議員は党の意向に反して棄権しています。その理由として「丸山議員の言動はかばえるものではないが、そのことと国会としてどうするかとは別」という旨述べていましたが、正しい認識だと思います。

 メディアも丸山議員の発言内容が不適切であることを当然の前提として、糾弾決議という手段が適切であるかどうか問いませんでした。発言が国益を損ねるあるいは外交問題に発展することを考慮すると当然という意見もありましたが、このような評価を伴うあいまいな理由で国会議員の発言を抑制することがあってはならないでしょう。その他の言動も問題視されていますが、犯罪として立件されているわけでもないため、本人が自らの判断で辞職するのでない限り、国会がそれを強要する理由にはなりません。

 国会議員の発言や行動の評価は、次の選挙で有権者に問われるべきであり、それ以外の方法で議員の身分が奪われることがあってはならないでしょう。国会議員の資格があるかどうかは最終的には有権者が判断するものです。今回の件が悪しき先例とならないことを願うばかりです。