参院選2019

 2019年の参院選が始まりました。参院選は政権選択の選挙ではないと言われていますが、参議院過半数を割ると法律が国会を通らないので、選挙結果は政権の命運を左右します。実際これまでにも、参院選の敗北によって退陣に追い込まれた内閣はいくつかありました。「ねじれ国会」においては参議院の意向が最終的な意味をもつため、「強すぎる参議院」という問題が生じていることも、いまでは広く知られています。

 その反面、参議院議員選挙の仕組みは混迷を極めています。参院選では、都道府県を単位とする「選挙区選挙」と全国を一つの単位とする「比例代表選挙」の2つがありますが、これらはまったく違う代表原理に基づいています。比例代表選挙は「比例代表法」という考え方に基づくもので、社会の意見の違いをそのまま議席に反映させようとするものです。一方、選挙区選挙については、定数が2名以上の複数人区では中選挙区制(少数代表法)、定数が1名の1人区では小選挙区制(多数代表法)がとられており、代表原理が全然異なる2つの制度が混在しているという状況です。これに先の比例代表制を加えると、参院選では3つの異なる代表原理(およびその選挙制度)が混ざっているため、いったい選挙でいかなる民意が示されたのかを判定することは困難です。

 また、前回2016年選挙では選挙区選挙で「合区制」が、今回2019年選挙では比例代表選挙で「特別枠」が導入されており、もはや何でもありという感じです。合区制が導入された以上、もはや都道府県制という理念も消滅してしまいました。これらの新たな制度は、都道府県制という選挙区選挙の理念や、「非拘束名簿式」比例代表制という考えの例外を認めるものであるため、参議院選挙制度は全体として一貫性のないものになっています。

 このような「いびつな」選挙制度になったのは、最高裁が投票価値の平等を厳しく求めたからだ、という見方もあります。たしかに、合区制はその最初の措置で、その手当のために特別枠ができたといえます。おかげで、今回の選挙では一票の較差が3倍を切るようです。

 しかし根本的な原因は、国会が憲法改正を回避して、その都度の弥縫策で凌いできたことです。たとえば、参議院の構成原理が憲法で「地域代表」とされれば、一票の較差をそれほど気にせずに、都道府県制を維持することは可能だったでしょう。最高裁はずっと以前から、都道府県制に憲法上の根拠はなく、平等原則(憲法14条)を破ることはできないという立場を示してきました。これは、最高裁が発したSOSだったのですが、国会はそのサインを無視し続けました。おかげで、これほどまで複雑でいびつな選挙制度になってしまいました。

 唯一のプラス要素は、昨年成立した候補者男女均等法によって、女性候補者が増えたことでしょう。ただそれも政党の努力義務にとどまっており、まだまだ道半ばというところでしょうか。フランスは憲法改正で男女半々(パリテ)原則を取り入れたため、法的強制力をもって女性候補者数を半数確保しようとしています。2017年下院選挙では女性議員が約39%を占めるようになったほか、地方議員では女性の割合はほぼ50%になっています。これも憲法改正の効果です。

 参院選の投開票は21日ですが、この選挙で示される「民意」とは何なのでしょうか。不合理で一貫性のない選挙制度のもとで現れる「民意」とは何なのでしょうか。選挙は民主主義のイロハなのに、選挙制度自体が合理的でないというのは残念というだけではすまされず、日本の民主主義にとってとても不幸なことだというべきでしょう。