親子の引き離しに加担する日本の裁判官

 最近、日本でも離婚後の「共同親権」を導入すべきとの考えが広まってきました。離婚後共同親権とは、夫婦は離婚後も婚姻中と同じく、子どもとの関係では共同親権者であり続けるということです。

 現在の日本の民法では、離婚後は父母の何れかによる単独親権になり、一方親は親権者でなくなります。しかし、夫婦関係と親子関係は別なので、夫婦関係の解消により一方親の親権が強制的に剥奪される合理的な理由はありません。このため、今日多くの国では離婚後も共同親権制が採用されていますが、日本でも近い将来、共同親権への移行は避けられないと思います。

 共同親権が実現していなくても、非親権者(多くの場合は別居親)が子どもと頻繁に接触し、子の成長に関わることができるのであれば、それほど深刻な問題は生じないでしょう。

 しかし、日本の裁判所は非親権者(別居親)と子どもとの面会交流にあまり積極的ではありません。裁判所が考える標準的な面会交流とは、月1回わずか数時間というものです。これでは、親子の実態があるとは到底いえません。共同親権の国では離婚後も父母の養育時間が原則半々とされているのと比べると、裁判所の考えは国際標準から大きくかけ離れています。実際、日本は今年2月、国連子どもの権利条約委員会から、子どもと別居親との頻繁な面会交流を認めよ、という勧告を受けました。

 さらに日本の裁判所は、親子断絶の片棒を担いでいると思われることがあります。最近で驚いたのは、大阪高裁平成29年4月28日決定(判例タイムズ1447号102頁)です。

 この事件は複雑なので、出来事を時系列に示してみます。

 2011年 子ども(9歳)の親権者を母親と定めて協議離婚が成立。同年中に母親は再婚し、子どもは養父と養子縁組をする。

 2012年 実父と子どもとの毎月1回7時間の面会交流を命じる審判が下される。

 2013年 面会交流の頻度を隔月に1回7時間とする決定(「決定1」)。しかし、母親は面会交流を拒否したため、実父が間接強制を申し立てる。面会交流不履行1回につき10万円の支払いを母親に命じる決定が下される。

 2014年 母親が面会交流禁止を申し立てるが却下される。

 2015年 上記抗告審にて、偶数月に1回3時間の面会交流を認める決定に変更される(「決定2」)。

 2016年 母親が面会交流を拒絶したため、実父が間接強制を申し立てる。

 2017年1月 大阪家裁、母親に面会交流不履行1回につき30万円の支払いを命じる。

 2017年4月 大阪高裁、実父の間接強制の申し立てを却下。

 

 この事件で実父は、裁判所による面会交流実施の審判・決定があるにもかかわらず、5年以上にわたって一度も子どもと会うことができませんでした。この間、母親は面会交流禁止の申し立てを行い、また1回10万円の間接強制の費用を支払ってまで面会交流を拒否し続けました。その戦略が奏功して、最後は実父の間接強制の申し立ては却下されました。結局、母親は面会交流を一貫して拒否し続けたことで、満足する解決を得たことになります。

 この事件に接したとき、どうしてこういう結論になったのかと思いました。大阪高裁が実父の間接強制の申立てを却下したのは、子どもが面会交流を拒否している、という理由でしたが、これほどまで争った高葛藤の父母であれば、子どもが同居親である母親の実父に対する強い嫌悪感の影響を受けて成長してきたことは想像に難くないでしょう(「私法判例リマークス58・民法14」)。

 裁判所は当初、面会交流を認める審判・決定を認めているので、父子関係に問題はなかったのだと思います。DVや虐待があったとの事実認定もありません。

 しかし、その後母親の一貫した拒否で1度も面会交流が行われないまま子どもが15歳にまで成長し、裁判所はその時点での子どもの拒絶の意思を尊重すべきとしました。子どもの意思を尊重するのは最高裁の立場に従ったものですが、裁判所による面会交流実施の審判・決定や母親の拒絶などの経緯を不問にして、執行時点での子どもの意思だけを取り出すのは、公正な判断ではないでしょう。結果的に裁判所は、面会交流を拒絶し続けた母親の引き離し戦略に加担してしまいました。

 このような事件の結末は「間接強制の可否」という側面からは仕方がないのかもしれませんが(実際、そのような見解が多いようです)、親子関係という目で見れば別の解決が望まれたのではないかと思います。

 この決定の前審である大阪家裁では、子どもが実父との面会交流を頑なに拒否しているのであれば、条理上当然に、子どもの気持ちをほぐし、実父との面会交流を受け入れるよう同居親は働きかけをする必要があるが、母親はそのような働きかけをしなかったとして、面会交流の不履行について母親への間接強制が認められていました。大阪家裁の判断の方が、常識的で理にかなったものだと思いますが、大阪高裁で覆されてしまいました。

 大阪高裁の決定は確定しているのですが、その後における父子の関係がどうなったのか気になります。イギリスの家族法・家族政策研究者のマリリン・フリーマン氏(ウェストミンスター大学教授)によれば、連れ去りや引き離しは長期にわたって子どもに精神的負担をもたらすようです。親子関係の問題について、裁判所は子の福祉を長期的な視点から捉えることも必要なのではないでしょうか。

 ヨーロッパでは子どもが別居親と交流できるだけでなく、祖父母とも交流できることが人権として確立していることを思うと、日本の法実務の後進性には目を覆うばかりです。日本の裁判所が子の引き離しを人権問題として考える日は、いつ来るのでしょうか。